2019/09/26

SJK200

SJK200(浜ノ磯丸作)

サ=サチ子 ヒ=ヒロミ 店=店員

サ:「ヒロミヒロミ、ねぇねぇ、ヒロミヒロミ」

ヒ:「煩いわね!何よ?」

サ:「あのね、付き合ってほしいの」

ヒ:「なんかこの展開前もあったわね…また自分磨きじゃないでしょうね?」

サ:「今回は買い物に付き合ってほしいの。掃除機がほしいのよ」

ヒ:「なんでまた掃除機?今まで使ってたのが壊れたの?」

サ:「ううん、だって、掃除機なんか使ったことないし」

ヒ:「へぇ、ホウキと雑巾でやってたの?案外マメなのね」

サ:「うーん、というか、ホウキも使ったことないわよ。どうせ散らかるから掃除って意味なくない?」

ヒ:「…まさか、あなた3年前に引っ越してから、掃除したことないの?一度も?どうなってるのあなたの部屋?」

サ:「そんなにひどくないわよ!寝るとこ以外はモノで床が見えないくらいの、ちょっと散らかってる感じの部屋」

ヒ:「それゴミ屋敷!」

サ:「えへへ、ありがと!」

ヒ:「褒めてないわよ!で、ここにきて掃除する気になったわけね」

サ:「そうなのよ、寝るところが手狭になってきて」

ヒ:「もう業者に頼むレベルじゃないの…わかったわ、とりあえず掃除機ね。どんなのが欲しいの?」

サ:「ルンバ!」

ヒ:「ルンバ!?バ…バ…バカ?」

サ:「バカ!??…カ、カモメ?」

ヒ:「しりとりじゃないわよ!あのね、ルンバは平らな床の上しか掃除してくれないのよ!床が見えない程の汚部屋では何の役にも立たないわよ」

サ:「そうなんだー。じゃあ、あれ、サイクロン式掃除機がいいわ」

ヒ:「ああ、あれねぇ…あなたには無理よ…掃除機の中にたまったゴミをしょっちゅう捨てなきゃいけないのよ?部屋の掃除もできないのに?掃除機のお世話があなたにできるとはとても思えないわ。だいたい予算はいくらなの?」

サ:「予算?お金?いっぱい持ってるわよ~、びっくりしないでね!なんと!!  一万二千円!」

ヒ:「微妙過ぎてびっくりだわ。わかったわよ、付き合うわよ、あなたの買い物に。じゃ、明日朝一番で行くわよ」

翌日

サ:「ねぇ、ヒロミ。なんで会社お休みなのに、制服着て朝から電気屋にこなきゃなんないの?」

ヒ:「いいから黙ってついてきなさいよ…ここね、掃除機コーナーは…」

店:「いらっしゃいませ~掃除機をお探しでしょうか~」

ヒ:「そうなのよ、あら、あなたはここの店員さん?」

店:「はい、この掃除機コーナーの責任者やらせてもらってます~」

ヒ:「あらー、若いのに感心ね~。そうなの掃除機が欲しいのよ。私のじゃないんだけど、会社の備品なのよ」

サ:「ちょっと!違うわよ!私の!掃除機!」

ヒ:「(目と表情で制して)あ、ごめんなさいね。ちょっとこの子、かわいそうな子なのぉ。本当は備品関係はこの子担当なんだけど、どうも公私混同しちゃうことがあって、アタシがお目付け役で付いて来たのよ。うちの会社もこれから何かと物入りでね。ネットで買ってもいいけど、やっぱり実店舗とお付き合いがあったほうが何かと、いいかなと思ってねぇ。」

店:「そうでしたかありがとうございます!是非当店をごひいきに!」

ヒ:「…それでね、掃除機といっても色々あるでしょぉ?」

店:「はい、いろいろありますよぉ。最近の売れ筋は『自動お掃除ロボット』に『吸引力の変わらないサイクロン式掃除機』」

ヒ:「紙パック!!」

店:「はい?」

ヒ:「紙パック式以外ダメよ!って会社の決まりなの」

店:「なるほど。さすがツウですね~。最近では昔ながらの紙パック式掃除機が見直されてきてるんですよ~。それではこちらなんかいかがでしょう!期間限定で今日までのセール品SJK-200(にぃまるまる)!16,800円。コンパクトな割にはハイパワーで二台目にお求めの方も多くて…」

ヒ:「ちょっといいかしら、これ今日まで16.800円だそうだけど、明日になったらおいくらになるのかしら?」

店:「えっ?えええ?えーっと…1万…あ、いや、2万と…(しどろもどろ)」

ヒ:「目が泳いでるわよ!まぁ、いいわ。で、これがおいくらになるのかしら?」

店:「いやー、もうこれが限界なんですよ~。お値引きの方はちょっと厳しくてですね~。目いっぱいポイントをサービスしちゃいますよー!」

ヒ:「困るのよ」

店:「なにがです?」

ヒ:「そのポイントってのがね。これ、会社の備品なのよ?会社の備品を買って、個人がポイントもらうっていうのは、ねぇ。コンプライアンス上いかがなものかって話になっちゃうでしょ」

店:「ああ、わかりますわかります。じゃあ、こうしましょう。こちら!この加湿器をオマケでつけますよ。ペットボトルで給水できるお手軽簡単加湿器で」

ヒ:「それねぇ、実売価格980円でしょ?そんな売れ残り季節商品押し付けられてもねぇ。」

店:「これもつけます!これからの季節いくつあっても困らない、みずとりぞうさん!6個パック」

ヒ:「加湿器と除湿剤を一緒にしてどうするのよ!ねぇ、お値段、何とかならないの?やっぱりネットで買うしかないかしら?」

店:「ちょちょちょっと待ってください、これ、今後のこともあるんですよね?わかりました、で、ご予算はおいくらしょうか」

ヒ:「12,000円」

店:「うっ、いまちょっと胸が苦しくなって。いや、800円を削る準備まではしてたんですが、あまりの衝撃的な数字に鼓動が激しくなりましたよ!5千円近い値引きですからぁ、それはちょっと」

ヒ:「あ、ダメ?ダメなんだ。ふぅん。そっか。あーあ、どーしよかなー、新しい事務所の電化製品も揃えなきゃいけないのに、なぁー」

店:「うぐっ!……わ”がり”ま”じだ……ほんとに、うちから買ってくださいよ…12,000円で、、結構です」

ヒ:「あら!悪いわね。なんだか無理に負けてもらったみたいで。ほら、お金出して!」

サ:「え!アタシ!?」

ヒ:「そうよ!あなたの…あなたの部署の掃除機でしょ!?はい、12,000円。手書きの領収書ちょうだいね。宛名は自分で書くわよ。え?配達?二人で持って帰るから大丈夫よ!それじゃ、ありがと」

ヒ:「ほらこれ持って!行くわよ!」

サ:「ちょっと、ヒロミ!これ、こんなコンパクトサイズの掃除機で大丈夫なの?かな?」

ヒ:「わかってるわよ!3年分のゴミ屋敷がこれで太刀打ちできるわけないじゃない!?いいからいいから、そこ曲がって、次のオーディオコーナーの角まがって…」

サ:「ちょっとさっきのところに戻ってきちゃったわよ」

店:「おや、先ほどのお客様?何かお忘れ物でも?」

ヒ:「まぁ、覚えててくれたのねうれしいわ。」

店:「ええもう、気持ち的には忘れたい出来事でしたけれども…なんですか?」

ヒ:「もうね、この子ったらほんとにね困ったこと言うの。これじゃダメだって。会社から指定された要件があって、業務用じゃなきゃダメだってのよ。買った後に言い出すんだからホントどうしようもないわね!バカなのよ」

店:「まぁまぁ、よくあることですよ…ええと、はいはい、業務用でしたら…同じメーカーでこちらのSJK-400(よんまるまる)ですね。実は先ほどお買い上げいただいた掃除機の後継機でして、吸引力もヘッドの機能も紙パックの容量もちょうど2倍なんですよ!ただ、お値段も2倍なんですよ~」

ヒ:「ということは?」

店:「ということは…さきほど12,000円でお買い上げいただきましたので、その倍の24,000円!?にはなりませんよ! これもともと34,000円なんですよ1万円引きってそりゃいくら何でもムリですよ。他をあたっていただくしか…」

ヒ:「あらー?社員寮に据え付ける家電製品、どこに発注しようかしらぁ。困ったわー30部屋もあるのにどうしたらいいのかしら~やまださーん、こじまさーん、どこが一体ベストなのー?」

店:「ちょちょちょっとちょっとお待ちください!もう、わかりましたわかりましたよ!事故に遭ったと思えば…もー 24,000円で、大丈夫です!」

ヒ:「え!?いいの!?なんだか悪いわね…無理に負けてもらったみたいで。ついでにもう一個、お願い聞いてくれない?」

店:「えぇ。まだあるんですか。もうここまで来たら、聞くだけ聞きますよ…なんでしょう?」

ヒ:「さっき買ったこの掃除機。今二つは要らないのよ?下取りしてくれる?」

店:「あ、ええ、そりゃもちろんですよ。さっきお買い上げいただいたままですから、そのままのお値段でお引き取りします」

ヒ:「まぁ、うれしいわ。さっきお支払いしたのはいくらだったっけ?」

店:「ええ、ちょうど12,000円です。まだ処理が済んでいませんので、そのままこちらにありますよ」

ヒ:「じゃ、その12,000円と、この12,000円の掃除機を引き取ってもらって、合計24,000円。これで『よんまるまる』持っていくけどいいわね!?」

店:「え、あ、はい。はい!?」

ヒ:「それじゃどうもありがと! はいはいはい、そっちもって、コレ一人じゃ持てないんだから」

サ:「あれれ~アタシわかんなくなっちゃった」

ヒ:「いいのよ、あなたはわかんなくても!早歩きで店を出るわよ」

店:「ちょっと、お客様!お待ちくださいお客様!」

ヒ:「ほらー、さっさと行かないから…なにかしら?」

店:「あのー、ちょっとお勘定が合わなくてですね」

ヒ:「なんでなんで?どうしたの?」

店:「現金がですね、12,000円しかないんですよ」

ヒ:「そうよ?でも、12,000円の掃除機を下取りしてくれたじゃない?」

店:「あ、そうでしたね、下取りがありましたね」

ヒ:「あなたね、そうやって、現金だけしか見てないからそういうふうに感じるのよ、大丈夫?大丈夫よね、じゃ、行くわよ」

店:「どーもすみません、ありがとうございました」

ヒ:「ほらほら、行くわよ行くわよ、小走りで行くわよ」

店:「すみませーん!お客様!ちょっとお戻りください!」

ヒ:「もー、なんなのよ!こんな大荷物持ってウロウロさせて!大変なのよ!どうしたの!」

店:「どーしても、お勘定があわないんですよ」

ヒ:「わかんないなら、電卓とノートもってきなさいよ!」

店:「このくらいのことで電卓使うこともないと思うんですけど」

ヒ:「このくらいのことがわからないから電卓使うんでしょ!?ほら、ノートに借方貸方って書いて!」

店:「借方貸方って…簿記ですか?高校の時にちょっとやったくらいで詳しくないんですけど」

ヒ:「簿記わからないの?会社の基本的な数字もわからないようじゃこの先やっていけないわよ!まず貸方に売上24,000円って、ほら書いて。反対の借方に現金12,000円。」

店:「現金12,000円。ここまではわかるんですけど」

ヒ:「下取りがあるでしょ?借方に 商品12,000円 て書くのよ!現金12,000円と商品12,000円、足していくらになった?」

店:「(電卓見ながら)24,000円」

ヒ:「あってるじゃなーい?どこもおかしいところはないわねぇ」

店:「なんかしっくり来ないんですよ?商品12,000円て現金と同じ扱いでいいんですか?」

ヒ:「じゃ少し専門的な話をするわね。小切手もらったとするでしょ?小切手は小切手よ?現金じゃないわ。でも、帳簿の上では現金として取り扱うのよ?」

店:「はぁ」

ヒ:「それとおんなじよ、掃除機は掃除機であって現金じゃないけど、帳簿の上では現金なのよ!ちょっとわかってる?」

店:「えーとえーと、現金が12,000円で掃除機が12,000円。掃除機が…えーっとえーと掃除機が…12,000円と12,000円で24,000円」

ヒ:「何度やってもおんなじよ!もう仕事にもどんなきゃなんないから、早くしてちょうだい!」

店:「ああ、ちょっと待ってください、えーと、えーと、12,000円と12,000円で24,000円だから。。。もー!わっかりましたー!おっけーです!」

ヒ:「わかったの?理解できちゃったの?」

店:「いいえ、もーしょうじき(そうじき)わかりません。理解するのをホウキしました」





※2018年ちりとてちん杯3位いただきました。
1年経ったので台本公開します~。
口演いただく際には一言ご連絡いただければ幸いです。

この姉妹作
「上級女子力講座」
もどうぞよろしく
https://moon.ap.teacup.com/nopita/3532.html

浜ノ磯丸


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