どうも。
婆:「おじいさん、ひまですねぇ」
爺:「ああ、ばあさん、ひまだねぇ」
婆:「たいくつですねぇ」
爺:「たいくつだなあ」
婆:「お客さん、来ませんねぇ」
爺:「来ないねぇ」
婆:「なんでお客さん、来ないんですかねぇ」
爺:「なんでって、ばあさん、今始まったことじゃないんだから、わかりそうなもんだよ。うちはこうやって小学校の前で雑貨屋やってるんだけど、昔はよかったよ、子どもたちがいっぱい来てくれた。鉛筆消し、ゴム、ペン、ノート、三角定規、分度器、コンパス、水彩絵の具、クレヨン、クーピー、文房具買いに来てくれたよ。学校が終わった後は駄菓子を買いに来てさ、にぎやかだったよ。それが、今は少子高齢化。子どもがいないんだよ。これじゃどうしようもないよ」
婆:「おじいさん、あきらめたらだめですよ!」
爺:「ばあさん、いい考えがあるのか!?」
婆:「子どもが少ないなら増やせばいいんですよ。あたしもがんばればあとひとりやふたり...」
爺:「無理だ無理だ無理だ!よしんばそうだったとしても、一人や二人増えたところで焼け石に水だ。そればっかりじゃない、車でちょっと行けば郊外型大型ショッピングモールがある。みんなあそこに買い物に行くんだ。文房具屋なんかはあの中の100円ショップで買うんだとさ。」
婆:「100円ショップ、あたし大好き」
爺:「ばあさんか、うちの店で売ってるのとおんなじものをわざわざ100円ショップで買ってきてるのは…とにかくだ、こんな個人商店はどうしようもないんだよ。まぁ、儲けようと思ってやってる商売じゃないから、店を閉めてもかまわないんだが」
婆:「そうですねぇ。でも、お店を閉めたら、もっとたいくつしちゃいますよ。」
爺:「そうだな。たいくつ過ぎてボケるかもしれん...。どうせ暇なんだ、ちょっと散歩にでも行ってくるか。ばあさん店番頼むよ。どうせ誰もこないだろうけど」
爺:「あー、春だなぁ。散歩するにはちょうどいいや。...あれ?こんなところに小さな祠があるな。キツネ?ああ、これお稲荷さんだ。知らなかったなぁ、ここも誰もこないんだな、随分薄汚れて、かわいそうに、ちょっと掃除してやるかな。...よしよし。これでだいぶきれいになった。あー、気持ちがいいな、せっかくだからお参りしとこう、(柏手)学校前で雑貨屋をやっております!商売繁盛!お客さんがいっぱい来てくれますように!と、よしこれでいいや。ふぅ疲れた。今日は帰ろう」
婆:「あらおじいさん、遅かったですね。はあ、お稲荷さんを掃除してきたんですか。それはいいことしましたね。きっといいことありますよ」
爺:「だといいけどなぁ。」
-その晩は早くに休みます。カラスかあで夜が明けて-
客:「ごめんください!誰かいますか!ごめんください!」
爺:「はいはい、なんですか、こんな早くに?」
客:「あー、よかった、お店の人ですか?あの、スリッパが欲しいんです」
爺:「はぁ、スリッパ?」
客:「そうなんですよ。今日、子どもの小学校の入学式なんですけど、式典、体育館であるでしょ?体育館の床が冷たくてしょうがないんですよ。学校はスリッパ貸してくれないっていうから、しょうがないんで買いに来たんです」
爺:「ああ、そうですか、スリッパねぇ...久しぶりだからなぁ、どこにあったかな、あ、あなたの、その後ろの棚。下から二番目に入ってませんか?1足あったと思うんですけど、そうそう、学校の体育館とかにあるやつとおんなじ、ビニールのヤツで、右も左もなくてね、スリッパにスリッパを差し込んで連結させてしまい込んでたんだけど...あった?それホコリかぶってますけど、新品なんで、ええ、500円です。どうも、ありがとうございました」
婆:「どうしたんです、おじいさん?こんな朝早くからお客さんなんて珍しいですね。あら、またお客さんですよ」
客:「スリッパください!」
爺:「スリッパですか…すみませんねぇさっきまで1足あったんですけど、売れちゃいましてね…」
客:「参ったなぁ、学校の体育館は底冷えがしてつらいんだよな」
爺:「入学式、ですか?すみませんねぇ、その後ろの棚の下から二番目に、なかったら、ないんですよ」
客:「後ろの棚...これ?あるじゃない?スリッパ。いくら?500円?じゃ、これ、ありがと」
爺:「ありがとうございました。あれー?1足しかなかったはずなのになぁ」
客:「スリッパ、スリッパをくれ!」
爺:「スリッパは、もう、ないです。すみません」
客:「困るんだよ、ほら、うちの子の入学式だろ、一人っ子だろ?そしたら俺たち夫婦、俺の両親、カミさんの両親、子ども一人に大人6人くっついてきてるんだからさ、みんな冷え性で体育館の床なんか耐えられないんだよ!スリッパ6足!頼むよ!」
爺:「そういわれましてもねぇ、ちょっとすみませんね、この棚の下から2番目、ここになかったら、もうないんで...あれ?あるなぁ...」
おじいさん、棚のスリッパ、1足分をスポっスポっと取り出しますと、棚の奥の方から次のスリッパがポコっポコっ
爺:「ええっ?どういうことだ?...あ、すみません、6足ですね、スポっスポっ...はい、3,000円になります。袋はいります?いらない?全部連結させてもっていく?そうですか、ありがとうございました...おいおいおい、ばあさん!?スリッパが棚の奥からぽこぽこ湧いてくるぞ!」
婆:「おじいさん!これはもしかしたら、お稲荷さんのご利益かもしれませんよ!」
客たち:「スリッパ!スリッパをくれ!スリッパをくれ!」
これを見ておりましたのが対面の酒屋の亭主。
この酒屋も暇であえいでおります。
酒:「ごめんよ!おーい、じいさん、どうしたの!?なんだか景気がいいじゃない?」
爺:「ああ、酒屋のご主人。いや、実はね…」
酒:「へぇ、そりゃうまいことやったな!俺もやってみるぜ!」
酒:「これがその祠かぁ…よし!(柏手)学校前の酒屋でございます!雑貨屋同様の御利益をよろしくお願いします!これでよし!さーて、うちもボロ儲けだぁ!」
酒:「…で、帰ってきたけど、お客さん誰も来てないな。ん?あれ?自動販売機の周りがゴミだらけだ。ははーん、なるほど、自動販売機の飲み物がいっぱい売れたんだ。うれしいねぇ。んん?いや、待てよ、これ、うちの品物じゃないぞ...スターバックス!?スタバの飲み物のカップが、自動販売機のゴミ箱の入り口をふさいでるんだ!それで、ごみが周りにあふれてるんだ!ちくしょう!ゴミだけ捨てに来るんじゃねぇよ!
だいたい、このゴミ箱、缶とかペットボトルしかはいらねーんだよ、スタバのなんとかフラペチーノとかいう呪文みたいなやつのカップを無理に捨てると入り口塞いじまうんだよ!ふざけんなよ!もう!」
酒屋の亭主、腹立ちまぎれに、ごみ箱の入り口をふさいでる「何とかフラペチーノ」のカップをスポっスポっと引き抜きますと…ごみ箱の奥から次のカップがポコ、ポコ...